自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第29回

私たちの世界を知る

 


 大阪府下で開催された「ボランティア講座」で、自閉症の理解について話をしてくださいという依頼があり、先日、行ってきました。
 当日、どのようなお話をしようかといろいろと考えていたのですが、私が小学校の5、6年生を対象に「みんなちがって、みんないい」というテーマで、自閉症や発達障害のお友だちの理解とつき合い方について話をしている内容をお伝えすることにしました。
 話が終わった後、聴衆者の方から「会話のきっかけレシピ通信」という通信紙をいただきました。雑談が苦手という方が発行しているものだそうで、その発行人の「ぽてさん」の経験や、また雑談の苦手克服の解決方法についても書いてあるそうでした。渡してくださったその方は、「今日の話しをお聞きしていて、発達障害の方も雑談が苦手なら、参考になるかと思って」とのことでした。
 私たちの法人の施設・機関には、多くの発達障害の人たちから相談が寄せられます。普通の人でも雑談が苦手という方はたくさんいらっしゃると思いますが、発達障害のある方々については、多くは文脈のない雑談は苦手としていますし、その理解自体が大変なことであろうと想像できます。イラストたっぷりのこの「会話のきっかけレシピ通信」で紹介された実践的な克服方法は、対象を発達障害の方々に広げても、確かに参考になりそうな内容でした。
 早速自宅に戻ってから、そこに書かれていたホームページにもアクセスしてみました。ホームページには、過去発行された通信紙3号までが閲覧できるようになっていました。
 通信紙第2号には、会社に行くときに同僚と一緒になり、「今日はあったかいですね」と話しかけられた場面が載せてあり、それに戸惑うぽてさんのイラストがクエスチョンマークとともに描かれています。
 ぽてさんは、「会話の始まりで、よく気候の話が出ますが、はじめはその意味を一生懸命考えていたのですが、あまり意味が無いことが分かりました。でもどのように答えたらよいのか、スムーズに言葉が出てこないのです」ということで、その解決方法として、それぞれ違った「あいづち」をシュミレーションしてスムーズに対応できるように努力している様子を描いていました。
 「そうですね。あったかいですねえ」、「ホント、もう春ですね」、「仕事さぼって遊びに行きたくなるよね」、「暖かくて気持ちいいですね」、「ちょっと汗かくぐらい(の陽気)ですね」、「そうだね、僕は花粉症であったかくなるとタイヘン」などの返答例をあげて、「相手との関係や性格をいろいろ想定してみて、せりふによって違和感がある・ないをシミュレーションしてみる」と書かれています。
 雑談が苦手のぽてさんは、「昼休みや休憩時間になると社員の人たちからつい逃げてしまったり、行き帰りや場所の移動で同僚などと一緒になりそうな場面では、歩くのを早くしたり、遅くしたりして距離をとるようにしたり、そのことですごくエネルギーを使って疲れる状況が続いている」とのことです。そこで「会話のきっかけレシピ」というプロジェクトを作って、雑談が苦手な人のために、いろんな会話をたくさん収集して共有しようとされています。
 この通信紙を通して、雑談が苦手なぽてさんの体験談を知り、私たちが簡単に挨拶を交わし、雑談していることが、やはり雑談が苦手であることの多い発達障害のある人たちにとっても、大変な努力が必要なことであり、苦痛や悩み、疲れを伴うことであるのことを改めて想像し、気づくことができたように思います。
 今まで、私自身、発達障害の人たちの世界を理解することを通して、私たちの世界に対する理解を少しずつ深めるということをしてきたつもりです。
 ぽてさんの体験からも、私たちが自然に身につけて日常的に難なく行っている行為が、実はそこに様々な要素が関係していることが分かります。
 私たちは瞬時に相手との関係を察知して、そのときの状況を吟味して、雑談の内容を理解し、自分自身の話の内容を決定するという、いろいろなプロセスを経ていることが分かります。
 今回、ぽてさんの体験から、また一つ私たちの世界、私自身の世界を学ぶことができました。
 このことは私自身との新たな出会いでもあります。本当にありがたいことだと思います。その後、発行人である「ぽてさん」に連絡をとることができ、このページで紹介させていただくことを了解いただきました。ぽてさんの「会話のきっかけレシピ通信」は、発達障害のある人たちの世界を私たちに理解するきっかけにもなるように思います。雑談が苦手な人たちの手助けとなるこの活動を是非続けていただきたいと思います。
 そして、私たち自身のためにも、もっともっと発達障害のある人たちの体験、そうでなくても、同じようなシチュエーションから学ぶとともに、その世界を理解して、どのようにすれば私たちと発達障害のある人たちが楽に暮らすことができるのかという暮らし方をこれからも模索していきたいと思います。
 ぽてさんのホームページアドレスをお知らせいたします。是非一度お訪ね下さい。
 (ぽてさんホームページ:http://gg.penguinrain.net)

掲載日:2008年10月23日