自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第7回

失敗体験から学んだこと ~行事編~

 


 対人援助の仕事に就いて34年になりますが、様々な失敗の中から学びながら現在の自分があります。裏返して考えると随分利用者やご家族の皆様にご迷惑をおかけして、今の自分があることになり、申し訳ないという思いで心が一杯になります。
 私が利用者の行事に関して失敗した思い出が二つあります。どちらの出来事も「京都市のぞみ学園」で勤めていた時のことでした。
 一つ目は秋の遠足についての出来事です。9月か10月に琵琶湖の湖西方面に出かけました。琵琶湖畔で昼食を食べて休憩をしている時に、利用者のMさんが公衆トイレで自宅から持参した水着に着替えて湖に入っていきました。水辺で水遊びをしているMさんの様子をどの職員も引き止めもせずに、にこやかに見守っていました。しばらくして、Mさんが浅瀬で泳ぎ始めました。その時、Mさんが職員に向かって何かを叫び、水面で手をバタバタさせました。しかしどの職員もMさんが冗談をしていると思っていたようでした。私はMさんの様子から、溺れているとの異変に気付き、とっさに服のまま湖に飛び込んでMさんの手を引き、なんとか助けることができました。高い山に囲まれている湖西の地形から、湖底は浜辺から急に深くなっていたことが溺れる原因になりました。当然のこととして、従来から水泳等、プール、海、湖における行事の実施については、事故に直結するリスクの高い行事であることから、その実施には、水泳中の監視体制、利用者の健康管理、医療体制などの内容を必ず計画に盛り込んでいました。しかしこの出来事を通して、職員のちょっとした気の緩みや判断ミスが人命にかかわる結果につながるということを学びました。Mさんには申し訳ないことをしました。行事の後、この経験を振り返り、職員と水の恐ろしさを再確認するとともに、当初計画にない事は基本として実施しない。また実施する際には、職員間で協議を行い、その実施については慎重な判断が必要であることを確認しました。余談ですが私が湖に服のまま飛び込んだ様子を見て他の職員は、「また松上さん冗談してはるわ」と思っていたそうです。当時、他の職員が私のことをどの様に見ていたのかを知る出来事でもありました。
 二つ目はハイキングにまつわる失敗談です。太閤道のハイキングコースに行く計画を立てました。下見では山崎町の若山神社から若草山、金龍寺跡を経て高槻市の磐手橋バス停に至るコースを歩きました。しかし若草神社までのアクセスが悪いことから、実施日当日は高槻市の磐手バス停からのコースに変更しました。この決定が利用者に大きな迷惑をかける結果となりました。若草山までは順調に歩きましたが、若草神社に下る坂道で大苦戦となってしまいました。下見の時、少し急な登り道だと感じていましたが、下り道はもっと急坂となり、足を取られ滑り転げる利用者や恐怖で立ち往生となる利用者で大混乱となりました。職員が利用者を支えながら下ったり、恐怖で歩くことのできない利用者を背負って下ったりで、なんとか若草神社まで全員無事に辿り着きました。行動予定時間をかなりオーバーする結果となり、タクシーを呼びよせて最寄り駅まで帰ることとなりました。ここでもまた事前の計画を簡単に変更してしまったこと、それも住宅地近郊の低山であるとはいえ、自然の中での行事であることを考えると、大変な間違いを起こしたことになりました。集団での行動であるということ、楽しい企画であっても常に全員の安全という土台に積み上げられた計画であること、行事を実施する上で、その結果引き起こされるかもしれない顛末をできるだけ多く考え、その対策を講じておくことの重要性を私は、この二つの失敗から学びました。利用者に対しては大変申し訳ない出来事でしたが、私にとっては良い学びと教訓になった忘れることのできない失敗の一つとしてあります。

掲載日:2007年12月06日