自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第60回

現場力を高める

 

 昨年度から始まりました私ども法人の第3次5か年事業計画のビジョンは、「かけがえのない法人を目指し、「信頼され尊敬される法人」を確たるものにする」です。
 そして、その実現を目指すキーワードとして、「現場力」「突破力」「提案力」を掲げました。
 今回の「松上利男の一言」では、皆様とともにこのキーワードの一つである「現場力」を中心に考えてみたいと思います。
 マネジメントにおいて「理念」(Why:何故私たちは存在するのか?)、「使命」(What:私たちは何を成すべきなのか?)が重要ですが、その組織としての理念と使命をどのように(How)実現するかという「オペレーション」が非常に重要となります。
 何故かと言いますと、「オペレーション」が上手く機能しないと、いくら素晴らしい「理念」や「使命」「ビジョン」を掲げていても、その「理念」「使命」「ビジョン」を実現することができないからです。
 この「オペレーション」の役割を担っているのが現場ということになります。そして、「オペレーション」の質の向上は、当然のこととして「組織マネジメント」の質の向上に繋がることとなります。
 ですから、私たちが掲げた「現場力」を向上させることは、「オペレーション」の質の向上に繋がり、そのことをして、「組織マネジメント」の質の向上へとつながることになります。
 それでは、どのような現場が「高い現場力」のある現場であると言えるでしょうか?皆様はどのようにお考えでしょうか?
 この「現場力」を考えるのに大変参考になる著書があります。早稲田大学大学院教授遠藤功先生執筆の「現場力を鍛える~強い現場力をつくる7つの条件~」です。
 それでは先ず、遠藤先生の考えておられる「現場力」について、著書に沿ってご説明したいと思います。
 遠藤先生は、「ビジョンや戦略自体に実効性は担保されていない。競争戦略を『正しくやりきる』主役はあくまで企業におけるオペレーションを担う現場であり、現場こそが企業価値を生み出す主役である」と説いています。
 私たち対人援助サービスを提供している社会福祉法人・福祉事業所の場合はどうでしょうか?
 私たち福祉事業所の場合、職員が利用者に提供する対人援助サービスの質のあり方(顧客満足度)が、直接的にその福祉事業所の評価につながるという福祉サービスの特長があります。
 少し本論からそれますが、人的活動である福祉サービスは、自動車や電化製品、衣類のように有形の物ではなく、形として表すことのできない無形の物であるという「無形性」という特長に依拠しているからだと言えるのではないかと思います。
 その他の福祉サービスの特長として、提供したサービスが、同時に利用者がそのサービスを消費するという「生産と消費の同時性」、一旦提供したサービスは形として残らないという「消滅性」、サービスが提供される様々な環境(職員、場所、時間、利用者)によって影響されるという「異質性」などが挙げられます。
 以上のことから、福祉サービス利用者が受けるサービスの質に職員の働きが大な影響を与えている対人援助サービスの特長から見ても、「現場力を高める」ことの大切さについてご理解いただけたと思います。
 また福祉サービスの場合、利用者やその家族、地域と直接向き合って対人援助サービスを提供する中で、様々な新たなニーズやその変化を把握(マーケッティング)するという重要な役割を担っているのも支援現場です。
 以上の福祉サービスの様々な特長から考えて、私たちにとって現場力向上は重要なテーマだと言えます。
 では、福祉サービスの特長を踏まえて、もう少し「現場力」についてお話を続けたいと思います。
 遠藤先生は、「実行力のある企業は『自分たちで能動的に問題を発見し、解決しようとする強い現場』を持っており、結果の出ない企業はただ単に言われたこと、決められたことをこなすだけ、時にはそれさえ満足にできない現場に振り回されている」と説いています。
 このことを私たち福祉現場に置き換えて考えてみますと、福祉現場においては、ルーチンワークという日々の支援が多いという状況から、「①業務に流されやすい、②考えようとしなくなる、③不都合なことや不条理なことは職員同士で目をつむりあってしまう、④改善の種を探す(明確にする)ことをしなくなる」という職員が陥りやすい傾向があると指摘されています。
 私は、そのような福祉現場の陥りやすい傾向を打破するためにも、私どもが掲げた「現場力」「突破力」「提案力」の三つのキーワードに基づいた現場からの実践の積み上げが大切だと思っています。
 そして、私は、その「現場の積極的な実践を下支えすること」が私ども経営者の使命と責任であると考えています。
 遠藤先生は、現場力の高い企業に共通している「目指しているもの」があると著書で述べられています。
 その共通点は、「正しいことを正しくやり続けることのできる企業である」とのことです。そして、その「正しいこと」=「当たり前のこと」として、以下の要諦を挙げられています。

 

  1. 結果を出すのは自分たちだという強い自負・誇り・当事者意識を現場が持っている。
  2. 現場が会社の戦略や方針を正しく理解・納得し、自分たちの役割をきちんと認識している。
  3. 結果を出すために、組織の壁を越えて結束・協力し、知恵を出し合う。
  4. 結果が出るまで努力を続け、決して諦めない。
  5. 結果を出しても奢らず、新たな目標に向かってチャレンジし続ける。

 

 遠藤先生が挙げられた5点は本当に私たち組織人としてしなければならない「当たり前」のことですが、この「当たり前」のことをやり続けることが「強い現場力」のある素晴らしい組織として成長を続けることに繋がります。
 そのことをして、利用者に対して質の高いサービスを提供し、地域が求める新たな支援サービスと支援システムを創造できる「信頼され尊敬される法人」へと繋がっていくことができると思います。
 そして、この「当たり前のこと」は私ども法人が掲げた「突破力」「提案力」にも繋がる内容でもあると思いました。
 これからも「強い現場力」のある「当たり前のことを当たり前にできる組織」への成長に向かって、職員の皆さん、お支えを頂いている皆様との協働の中で、更に私たちの組織を磨き上げていきたいと思っています。

(参考文献)
「現場力を鍛える~『強い現場』をつくる7つの条件」
(早稲田大学大学院教授遠藤功著、東洋経済新報社)
「知的障害援助専門員養成通信教育テキスト9『障害福祉事業所のマネジメント』」
(共著、財団法人日本知的障害者福祉協会)

掲載日:2013年06月05日