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第55回

もし福祉事業所の職員がドラッカーの『マネジメント』を読んだら(4)

(4)マネジメントの役割~社会の問題について貢献する~


1.「社会の問題について貢献する」こと

 ドラッカーが考えたマネジメントの役割である「自らの組織に特有の使命を果たす」「仕事を通じて働く人を生かす」について考えてきましたが、今回はその最後の一つ、「社会の問題について貢献する」について考えてみたいと思います。
近年、皆さんもご存じのように、企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)について多く語られるようになり、組織マネジメントの中で、CSRの取り組みが重要な課題になっています。
私たち社会福祉法人、特に障害者福祉領域においては、障害者雇用が企業におけるCSRの取り組みの一つとして、身近なものとしてあります。
 以前は、CSRの活動について、企業のステークホルダー(企業と何らかの利害関係を有する主体)は、顧客と株主に限定して考えられていましたが、現在は、障害者雇用に代表されるように、顧客や株主に限らず、社員や消費者、地域住民など企業を取り巻く様々なニーズのある人たちに配慮した活動が求められるようになってきました。
 この企業の社会的責任について、ドラッカーは「社会の問題に貢献すること」、すなわち「社会の様々なニーズに応えることが社会貢献」でありマネジメントの三つの役割のうちの一つであると位置づけました。
 著書「マネジメント」は1970年代に出版されました。
 ですから、ドラッカーは早くから現在求められている企業の社会的責任を見据えていたことになります。その卓越した先見性は「すごい!」の一言です。

2.「社会の問題について貢献する」~社会福祉法人に期待される社会的役割とは?~

 ドラッカーは、「会社は『社会の公器』である」、すなわち「会社は社会のためにある」と考えました。 

ですから、会社の責任と役割は、多様な人々のニーズに応え、社会のあらゆる問題を解決することにあると言えます。
では、私たち社会福祉法人はどうでしょうか?
 私たち社会福祉法人は、国民から頂いた税金である公金と浄財によって運営しているのであり、言うまでもなく実体的にも「社会の公器」としてあります。
 ドラッカーは、「非営利機関は、人と社会の変革を目的としている」(非営利組織の経営)と説いています。
 そのことを私なりに考えると、「社会の公器としてある社会福祉法人は、社会の様々なニーズに応え、人々がその人らしく暮らし・生きていくことのできるより良い社会の実現のために、人と社会を変革し続けること」が目的であり、使命であると言うことだと思います。
 日本の社会を見ますと、人々が将来にわたって、豊かに安心して暮らし続けるために、解決しなければならない多くの課題があります。
 特に少子高齢化の問題は、私たちの将来の暮らしや社会の在り方を大きく左右する最重要課題です。
 少子高齢化が進む中で、日本の世帯規模は平成17年に1世帯の人数が2.58人になり、それに伴って単独世帯が27.6%となっています。
 夫婦のみの世帯18.9&を含めると46.5%の世帯が2人以下の世帯規模になっています。
 また、65歳以上の人がいる世帯が全世帯の41.2%(平成20年)であることから、少子高齢化の進行が、「独居世帯」の増加や「老々介護」という社会的問題を引き起こす要因になっていると言えます。
 国は、「自助・共助・公助」という考え方を基本として、中福祉・中負担による社会福祉制度構築を進めていますが、すでに自分自身で支える「自助」、家族を中心として地域で支え合う「共助」という機能は、この数字から見ても崩壊しているのが現状であると思います。
 最近、新聞で「老々介護」家族の孤独死がたて続けに報道されていますが、このことがこうした現状を如実に表していると言えます。
 障害者福祉の領域でも、障害のある子どもが老齢の親を介護する「老障介護」やその逆の「障老介護」の問題がクローズアップされてきました。
 このような問題・課題を解決するための子育て支援や介護支援、障害のある人たちへの支援、人々が支え合うコミュニティづくりなど、公器としての私たち社会福祉法人に課せられた社会的役割と責任はますます大きくなっています。
 現状の社会福祉法人に対して、「制度の後追いばかりをしていて、真に求められているニーズに向き合って来なかった」との批判があります。
 私は、その苦言を真摯に受け止めなければならないと思っています。
 そして、ドラッカーの説く「マネジメントの役割」に学び、非営利組織の目的である「人と社会の変革」という私たちに課せられた使命を今一度捉えかえし、私たち自身の変革を通して、社会の問題に貢献していかなければならないと思っています。
 是非皆さんとその第一歩を踏み出したいと願っています。
 豊かな未来を確かなものとするために!

掲載日:2012年04月07日