自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第53回

もし福祉事業所の職員がドラッカーの『マネジメント』を読んだら(2)

その2:マネジメントの役割~自らの組織に特有の使命を果たす~


 前回の「松上利男の一言」では「企業の目的とは何か?」についてお話をしましたが、今回はドラッカーの説く「マネジメントの役割」について考えたいと思います。
 ドラッカーは、マネジメントの役割について、「自らの組織に特有の使命を果たす」「仕事を通じて働く人たちを生かす」「自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する」の三つを上げています。
 それでは今回、第1番目の役割である「自らの組織に特有の使命を果たす」について、考えてみたいと思います。
 ドラッカーは、「組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。組織は目的ではなく手段である」と説いているように、「組織は社会の公器であり、社会に貢献することが組織としての使命であり、役割である」いうことになります。
 私が社会福祉法人北摂杉の子会の設立と知的障害のある人たちの生活施設(施設入所支援事業)「萩の杜」開設の事業に関わるときに、共に事業を進める親御さんたちとお約束したことの一つが、このドラッカーが説いた「組織は社会の公器である」ということについてでした。
 「この法人・施設は、親御さんたちや私が亡くなった後も、社会の財産として存在し続けます。ですから自分の子どものためだけにこの法人、施設を作るのであれば、私はこの活動には関わりません。ご自身の子どもさんのためだけにこの事業を進めると、結局、最終的には、子どものためにはならない結果になります。ですから、この法人が地域の多くの障害のある人たちのニーズに応えるための地域の財産として存在することが重要だと考えています。そのことについて、お約束して頂けるのであれば、共にこの活動に参加させて頂きます」と、私は親御さんたちに投げかけました。
 親御さんたちは直に私のこの問いを理解して下さり、同意を頂き、法人設立の第一歩を踏み出すこととなります。
 私は、この「私たち法人は地域の財産である」という考え方、すなわち「組織は社会の公器である」との開設当初からのしっかりとした思いがあったからこそ、現在の私たち法人・事業のカタチになっていると確信しています。
 では、そのような法人設立当初のことを思い浮かべながら、私たちの組織である社会福祉法人北摂杉の子会特有の使命とは何かについて、考えてみたいと思います。
 私たちの法人は理念として「地域に生きる」を掲げています。そして、その「理念」に基づいて、私たちが目指すビジョンである「障害の有無にかかわらず、一人の人間として、生まれ育った地域の中で暮らすことができる、家族や多くの隣人たち、地域の人たちに囲まれて、普通の暮らし、生活をおくることができる、そのようなやさしさのある社会」の実現を目指しています。
 私たちの組織が「何故存在するのか(Why)」は、まさにここに示した私たちのビジョンを達成するためにあります。
 ドラッカーは著書「非営利組織の成果重視マネジメント」の中で、使命について、以下のように説いています。
 「使命には、以下の3つが反映されなければならない。それらは、機会、能力、そしてコミットメントである。すなわち『われわれの目的は何か』『われわれはなぜ今この事業を行なうのか』『われわれは最終的に何を社会に残してゆきたいのか』という質問に答えなければならないのである」
 また、「使命を効果的に表現するには、短く、焦点を絞ったものにする必要があり、Tシャツに記せるほど簡潔であるべきだ」とも述べています。
 ですから私たちの使命を簡潔に表現すれば、例えば「やさしさのある社会の実現」ということになるのではないかと思っています。
 そして、わたしたちは、そのビジョンを達成するために二つの大きな目的「何をなすべきか(What)」を掲げています。
その一つが「高槻地域における様々な障害のある人たちの必要とされる支援サービスの創造と障害のある人たちが生涯を通して、地域の中で豊かに暮らすことのできるための包括的な支援システムを構築する」ことです。
 二つ目は、「大阪府下における自閉症・発達障害のある人に特化した必要とされる支援サービスの創造と発信、生涯にわたる包括的な支援モデルの構築と発信」です。
 この目的を達成するために「どのように実現すべきなのか(How)」について、私たちの強みを活かしながら、私たちの組織を取り巻く外部環境の変化を分析しながら、戦略を練り、長期・中期・短期の目標を掲げて日々全職員で力を合わせて、その目標達成に向けて取り組んでいるという一連の流れがマネジメントであるということになります。
 現在、私たち法人では、平成24年度から始まる「第3次5ヵ年事業計画」の策定作業を進めていますが、その中で法人理念である「地域に生きる」に基づく「ビジョン」「使命」や私たちのコアバリューである「クレド(信条)」について、かなりの時間を使って議論を深めているところです。
 先程もお話したように、ドラッカーがマネジメントで非常に重要視していることは、「何故私たちは存在するのか?」「何をなすべきなのか?」を日々考え、行動することでありますが、その使命達成に必要な三つの要点を、著書「非営利組織の経営」の中で上げています。
 一つ目は、「組織の強みと成果に目を向けなければならない。うまくやっていることをもっと上手にやることが必要である」ということ、すなわち「自らの強みを活かすことである」といっています。
 私たちの法人が設立当初より大切にしてきたことは、大変重い障害のる人たちへの支援であり、制度の谷間にある人たち、具体的には自閉症・発達障害のある人たちへの支援でした。そのための支援の専門性の向上に努力してきたという経緯があります。
 また、障害特性の理解と個別的ニーズに基づいた個別支援も大切にしてきました。
 そのような実践を通して、まだまだ磨き上げが必要ですが、私たちの強みは、この「専門性」と「個別支援」ということになります。
 ドラッカーの考えに基づいてマネジメントを考えると、この二つの私たちの強みを活かすことこそ大切であるということになります。
 二つ目は、「機会」です。ドラッカーは、「外部に目を向けて、機会、つまりニーズを探らなければならない」と説いています。
 では、私たちの法人を取り巻く外部環境の変化による機会とニーズとは何でしょうか? その一つが障害者福祉制度改正という外部環境の変化があります。一昨年12月の障害者自立支援法改正法で、「発達障害が障害の範囲に位置付けられたこと」と来年度予算の中で「政策・予算の柱の一つとして発達障害者支援関係対策が位置付けられた」ことの二つがあります。
この機会を活かすことが私たち法人にとって重要になります。
 三つ目は、「本当に信念をもってやれるか」ということです。新しい機会やニーズがあっても「信念をもって成し遂げる」ということを心底信じることがなければ上手く事が進まない結果になるということです。
 ドラッカーは、「使命とは、個人を離れた一般的なものではありえない。固く信じることなしに物事がうまくいったためしはない」と説いています。
 平成24年という新年を迎え、私自身、この「信念をもって成し遂げる」ことを常に心の奥底にもち続けながら、私たち法人のビジョン実現に向けて、決意を新たにして取り組んでいきたいと思っています。
 では、今回はここで一区切りといたします。 マネジメントの役割の「仕事を通じて働く人たちを生かす」と「社会の問題について貢献する」については、また次回、お話したいと思います。

掲載日:2012年01月06日