自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第17回

自主製品について考える

 


 「マスター、コロッケおいしかったよ!」、大阪梅田北新地にあるキッチンバーでの帰り際のお客さんの声を、カウンターにいる私は、心地よく聞いていました。
 昨年度、厚生労働省の障害者自立支援調査研究プロジェクトとして、私ども法人が取り組んだ調査研究事業を通して作り上げている自社ブランド製品の「コロッケ」に対するお客様の一言でした。
 「障害のある人たちが作ったということを付加価値にはしない」という障害のある人たちの労働についての考えを、私はこの仕事に携わってから持ち続けています。コロッケ調理事業についても当然のこととして、その思いを持って取り組んでいる私にとって、コロッケの味を率直に評価していただいたお客様の一言が大変うれしく感じられました。
 この思いをより明確に持つことになったのが、87年春に開設した知的障害者通所授産施設「横大路学園」の開設準備をしているときでした。
 「京都市横大路学園」は、京都市の「空き缶再資源化施設」という機能を持つ施設として開設されましたが、開所当初の空き缶処理量や冬場の空き缶回収量の落ち込みを見込んで、空き缶再資源化作業以外の作業の導入を検討していました。そこで導入した作業の一つが手織り作業でした。
 手織り作業を導入するにあたっては、三つの基本方針を掲げ、職員に提案しました。
 それは、「障害のある人が作ったとは言わない」、「バザーでは売らない」、「付加価値の高いものを作ろう」という基本方針でした。
 私は、「障害のあるなしに関わらず、『良い物は良い』、『悪い物は悪い』、『売れる物は売れる』、『売れない物はいくら値下げをしても売れない』」という思いを持っています。
 そのような思いから、障害者施設で作られた製品について、「なぜ障害のある人たちが作った製品ということを付け加えなければいけないのか?」ということに疑問を持っていました。そして、「障害者施設の職員の人たちが、品質はともかくとしても、障害のある人がこんなに努力して作った製品だから意味のあるものだから買ってください」というように、「障害のある人が作った」ことを「付加価値」として考えているのではないかと思うようになりました。
 もし私たち職員がそのような思いで、障害のある人たちを支援しているのであれば、私たち支援者自身が、障害のある人たちの労働の価値を低く見ていることになると思います。そして、それは、明らかに障害のある人たちを差別していることになります。
 私たちの支援の基本は、障害のある人たち一人ひとりの持っておられる「強み」や「長所」を活かし、障害のある人たちとともに、いかに「良い製品」、「価値ある製品」を作り出すのかということです。
 このような思いを持って、私は「京都市横大路学園」での手織り作業の開始に際して、「障害のある人が作ったとはいわない」という一つの基本方針を提案しました。
 また、「バザーでは売らない」という基本方針ですが、バザー自体が慈善的な意味合いを含んでいるよう思えるからです。
 バザーに来られる人たちの購買動機として、「この製品、気に入ったわ!」という動機と同時に、「障害のある人たちが一生懸命作った物だから買ってあげよう」という動機も含まれているような気がしてならないからです。
 そして、そのようなバザーに来られる人たちの購買動機を考えると、私たちにとって重要である情報、「製品が真に顧客ニーズに合っているのかどうか」ということの評価ができないからです。
 また同時に、私たち職員の意識として、「皆さんに喜んで買っていただいたわ!」という自己満足で終わってしまう危険も感じます。
私の「バザーでは売らない」という思いは、「市場で勝負しょう!」という思いが基本としてありました。
 市場で売れる製品を作ることは、障害のある人たちが作った製品が社会的に評価されることであり、そのことをして、障害のある人たちの労働の価値を社会的な意味のある価値へと高めていくことになります。そのことが重要であると考えたのです。
 現在でも同じような状況にありますが、当時も授産施設での仕事の多くが内職的な仕事であり、一つ加工して何銭という仕事の内容で、障害のある人たちが一生懸命働いても月に5千円前後の工賃額という状況でした。
 三番目の基本方針である「付加価値の高い物を作ろう!」は、そのような状況を何とかして打破したいとの強い思いからのものでした。
 当時の思いとしては、障害のある人たちの地域での自立生活を支えるための経済的な基盤として、障害基礎年金プラス月額5万円の工賃というのを一つの所得基準額として想定していました。今から20年前の「京都市横大路学園」では、利用者一人当たり月額5万円の工賃の支給が実現できていましたが、それは全国的な授産施設の工賃額に比べて、非常にまれなことでありました。
 手織り作業担当職員は、私のこうした思いを理解し、提案した三つの基本方針に賛同して、早速手織り作業を始めました。
 担当する2名の職員は、作業開始と同時に、自ら手織り機を購入して、自宅で手織り作業に取り組み、自らの手織り技術の向上に努めました。
 そして、利用者と職員の努力の中で、最初の織物が仕上がりました。
 早速、その織物を持って、担当職員とともに河原町近辺のお店に売り込みに行きました。
 もちろん、私は、はじめて織り上げた織物がすぐに売れるというような甘い気持ちは持っていませんでした。
 お店の人からの製品に対する厳しい評価を得て、職員がその評価を真剣に受け止め、市場で勝負できる「完成された製品」、「付加価値の高い製品」を目指すための一つの動機付けに繋がれば良いとの狙いからでした。
 お店の人からは様々な厳しい評価を受けましたが、そのことはそれからの取り組みに確実に繋がることになりました。
 また、あるお店の方からは、「この店に合った色調で、同じ製品を、月々コンスタントに納品できるのであれば店に置きますよ」との返答も頂きました。このお店の人からの一言も職員に対する大きな動機付けとなりました。職員は、この一言から、「障害がある人たちが作ったということとは関係なく、お店の要求する製品を作ることができれば、納品できるんだ」という思いを強く持ちました。
 この売り込み作戦は、当初に狙った通りの結果となりました。
 その後、担当職員たちは、付加価値の高い製品にするには、コースターやテーブルクロスのような加工の手間の割には販売価格の低い小物の製作は、やめることにしました。
 良い手織りの生地を活かしたワンピースやスーツなどの販売価格の高い、付加価値の高い製品を作ることにしました。
 また施設内で製品を最後まで仕上げるという施設完結型の仕事の組み立て方から、自分たちのスキルの劣る部分、例えば、仕立ては専門家にお願いすることにしました。そのために高い工賃を支払ったとしても、仕立てと生地の良い服を長くお客様に愛用していただくことが大切だと判断したからでした。
 そして、品数を多くすることで、多くの製品の中から、お客様の最も気に入った服を買い上げて頂くことも「顧客満足度」にとって大切なことだということも職員は、学んでいきました。
 製品はブティックなどで販売しました。もちろん障害者施設の製品ということでは売らないという原則は貫き通しました。
 また販売を通して、職員は、お客様のニーズを敏感に感じ取り、そのニーズを利用者の手織り作業の中に活かしていきました。
 施設での自主製品つくりの中で、製品が売れないために多くの在庫を抱えていても、同じ製品を作り続けているという状況を見かけることがあります。
 職員があまり工夫をすることなく、このような状況の中で、障害のある人たちに同じ製品を作り続けさせているとすれば、それこそ差別であると私は思います。仮に私たち自身が逆の立場だとしたら、置かれた立場にきっと強い怒りを感じられるのではないでしょうか。
 今、私ども法人の大きなテーマとして、「就労支援の強化」とともに「授産事業の強化」を掲げています。
 冒頭でお話した「コロッケ」の調理、販売も、授産事業の強化策の大きな柱です。まだまだ事業としての課題は多くありますが、「京都市横大路学園」で掲げた三つの基本方針を大切にしながら、製品の質で勝負できる「コロッケ」の製造、販売の取り組みを進めて行きたいと思っています。

掲載日:2008年04月25日