自閉症・発達障害のある方を支援する福祉施設を大阪・高槻で運営

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第15回

染色家武蔵さんの一言から学ぶ

 


 以前、「松上利男の一言」の中で、「京北やまぐにの郷」における強度行動障害を伴う利用者支援についてのお話をしましたが、私が赴任した時、利用者に対する日中活動は、エネルギーの発散という目的で行われていた散歩やランニングだけでした。
 私は利用者一人ひとりのニーズや障害特性に基づいた個別支援の充実と日中活動については生産的な活動を提供したいと考えました。
 そこで導入したのが「手織り作業」、「木工作業」、「椎茸栽培作業」、紙箱加工などの「下請け作業」でした。
 また「アメリカンミニチュアホース牧場」でのグループ就労をはじめ、企業内実習などの施設外就労の取り組みでした。
 「京北やまぐにの郷」の所在地である京北町は、多くの芸術家が暮らしておられ、素晴らしい自然環境の中で、芸術活動をされていました。そして、芸術家の方々から利用者が取り組んでいる作業にも直接的、間接的に様々な支援や助言を頂いていました。
 そのような環境の中で、染色家である武蔵さんと出会いました。
 武蔵さんは大変温和で気さくなお人柄の方で、私どもの利用者の作業の一つとして「草木染」を教えて欲しいとの申し出に対して、気軽にお受け頂き、ご夫婦でボランティアとして私たちに草木染の指導してくださいました。
 武蔵さんは、北山杉で有名な京北町の杉を活用した「町おこし事業」の一つとして、杉を原料とした「杉染」の技術開発に取り組んでおられました。武蔵さんのお話では、「針葉樹は草木染の原料としては不向きで、なかなか思った色が出ない」とのことでした。
 しかし、武蔵さんの強い職人気質と努力の結果、困難とされる杉から茜色の染めに成功したことが新聞で大きく報道されたこともありました。
 武蔵さんご夫妻は、施設に直接訪問してくださり、利用者、職員に「草木染」の技法を教えて下さっていました。私は武蔵さんの訪問をいつも楽しみにしていました。いつも武蔵さんは作業をされながら「草木染」についてのお話をしてくださるのですが、その奥の深い貴重なお話から、いつも人間としての生き方について、気づかされ、考えさせられ、学ぶことが多くありました。
 あるとき、私が「武蔵さん、良い染をするには、どんな木がいいのですか?」と武蔵さんに尋ねました。
 武蔵さんは、「それはいじけた木ですね。日のあたらない、土もあまり良くない、そんな悪条件、環境の中で、一生懸命生きているそんな木の方が、環境の良いところですくすく育っている木よりも色持ちがいいんです」と即座に答えられました。
 この武蔵さんの言葉は、私の心の奥深いところに突き刺さり、今でも私が困難な状況にぶち当たる度に、「私に元気と力を与えてくれる言葉」として甦ってきます。
 この武蔵さんの言葉は、私に「人は、困難をくぐる度に人としての魅力が増し、成長して行くんだ」という学びを与えてくれました。またそれは、「自然の中でともに生きている私たち人間と樹木にも共通する成長にとって大変重要な条件の一つとしてある」という私にとっての貴重な気づきでもありました。
 またあるとき、「武蔵さん、色が出ないとき、どうされるのですか?」と、武蔵さんに私が尋ねたことがあります。
 武蔵さんは、「そのときは、『色が出ろ!』という一念で色を出します」と答えられました。
 私が、「一念で色が出ますか?」と武蔵さんに念を押したところ、「出ます!」と真剣な表情で武蔵さんは答えられました。
 私は、「芸術家はすごい!」と感心するとともに、「人生も一念なんや」との教訓を得ました。
 「自分自身の夢は、一念でなんとか実現する」という、そんな思いで、皆さんも非常にポジティブに生きていかれることをお勧めして、今回の「松上利男の一言」を終えることにします。

掲載日:2008年03月27日