第45回 行動援護と職員(スーパーヴァイザー)養成の可能性

 10月3日の日曜日に、社会福祉法人むそうと行動援護環境研究会準備会主催の「行動援護と暮らしの支援〜就労支援・居住支援・社会参加支援〜」というセミナーが東京であり、参加しました。
 昨年度私ども法人が実施した「強度行動障害を持つ自閉症者の地域移行を支えるGH(ケアホーム)・GH(グループホーム)、および入所施設の機能の在り方に関する先進事例研究」の研究メンバーであったNPO法人ふわり理事長戸枝陽基さん、全国地域支援ネットワーク代表理事田中正博さんたちが中心となって準備されたセミナーでした。
 当日は戸枝さん、田中さんと共に研究メンバーであった社会福祉法人はるにれの里佐藤貴志さん、川崎医療福祉大学准教授小林信篤さん、株式会社インサイト代表取締役関原深さんも発表者、シンポジストとして参加されていましたので、久しぶりに皆さんとお会いする良い機会となりました。
 行動援護という支援サービス内容は、「行動上著しい困難を伴う障害のある人たちであって常時介護を必要とする人たちに対して、行動する際に生じ得る危険を回避するために必要な援護や外出時における移動中の介護、排泄、食事などの介護、その他行動する際の必要な援助」とされています。
 この支援サービスの創設については、田中さん、戸枝さんをはじめとして、当日開会の挨拶をされていた東京学芸大学教授加瀬進さん、当時厚労省におられた国立重度知的障害者総合施設のぞみの園総務部長?本英俊さんたちの努力と苦労の中で、実現できたということを窺い知る事ができました。
 加瀬さんは開会のご挨拶の中で、日本知的障害者福祉協会発刊の「行動援護ガイドブック」における野沢和弘さんの「親の立場から『行動援護』を見ると・・・」の以下の抜粋した文章を読み上げられて、行動援護の重要性、今後の可能性とその意義を踏まえた今後 のあり方についての問題提起をされました。
親の立場から「行動援護」を見ると・・・ 野沢和弘(抜粋)
これまでわりと無頓着に見落とされてきましたが、ユニークな行動特徴を有する人びとに対する支援は、その障害に関する高度な科学性や専門性と、人間へのあくなき愛着や情熱を併せ持つ支援者でないとなかなか務まらないようにも思います。福祉サービスにとどまらず、現場での人間科学の探求という役割が「行動援護」にゆだねられているのです。支援者がその役割を自覚して、新たな価値観(魅力)を障害者福祉の分野に築くことができたとき、「行動援護」が意味する支援は福祉の枠を超えて、この時代の重要な役回りを演じることになるのかもしれません。
出典:加瀬進編著「行動援護ガイドブック」(2005年、日本知的障害福祉協会)
 昨年度の「強度行動障害を持つ自閉症者の地域移行を考えるCH・GHおよび入所施設の機能の在り方に関する先進事例研究」を通して、強度行動障害のある人たちを支える仕組みと共に、その仕組みを実質的に機能させるためには、支援者の育成プログラムとマネージメントが重要であることを学びました。
 そして、サービスの質は支援者の専門性の質によって支えられ、その支援者の質はマネージメントの質によって支えられるという重要な学びをノースカロライナのGHA(Group Homes for the Autistic Inc)の実践から得ることができました。
 そのようなことから、野沢さんが指摘されている「哲学」「倫理観」を基本とした「障害に関する高度の科学性、専門性」が行動援護支援者に求められているとの指摘は、大変基本的で重要な視点であると思います。
 「行動援護事業」の支援対象となる行動障害のある人たちは、生き辛い・暮らし難い環境(人も含めての)での暮らしを強いられている状態像であると言えます。
 ですから、その人が暮らし易い環境をどのように提供するのかが支援の基本となります。
 そこで支援者に求められる専門性は、その人の障害特性を踏まえた上での生き辛い・暮らし難い要因を詳しくアセスメントできる支援力が先ず必要となります。
 そして、行動障害のある人たちの移動支援など地域生活支援を行う上で、行動障害を誘発させる環境リスクを的確に読み取り、支援を組み立てていく支援のマネージメント力も必要となります。
 また支援の中で突発的に起きる事態に対して対処し解決する問題解決能力も必要となります。
 もちろん行動障害のある人とのコミュニケーション能力や利用者本人の支援に関わる他の支援機関・支援者や家族と連携を進める上での説明能力や調整能力も重要となります。
 このように考えると、支援者として求められる多くの専門性や能力が行動援護支援の中で育成することができる可能性が潜んでいると思うのです。
 それは、施設における支援という限定された環境の中での支援、言い換えますと支援者にとって、利用者の必要とする環境調整が比較的に容易である環境での支援と比較すると、行動援護は、様々な利用者にとっての環境リスクが存在する地域生活ベースでの支援であり、非常に困難性が伴う支援であると考えるからです。
 だからこそ行動援護の支援を通して、高い専門性を有する支援者、スーパーヴァイザーを育成する可能性を私は行動援護事業の中に見出しているのです。
 私たちは昨年度の厚労省研究事業の中で、研究員である田中さん、戸枝さんを中心として、行動援護に関わる支援者の養成カリキュラムをまとめて、提案しています。
 そのカリキュラムの検討にあたっては、全国的に行動援護領域でスーパーヴァイザーとして活躍されている支援者たちにインタビューを行い、その資質を得るまでの学びや経験を集約、分析した上で、育成カリキュラムに落とし込んでいます。
 ですから非常に実践的な支援者養成カリキュラムのモデルであると言えます。
 この育成カリキュラムについては、法人ホームページ上でアップしている研究報告書の中に記載されていますので、是非お読み下さい。
 私は、今回の行動援護のセミナーに参加して、是非新しく組織化される「行動援護環境研究会」で、新たな行動援護のあり方の検討と提言と共に、この支援者養成カリキュラムの具体的なコンテンツの研究と全国的な養成システムについての検討、提言を行って欲しいと願っています。
 なぜなら、大変重い障害のある人たちの地域での24時間、365日のトータルで包括的な支援の実現を考えるとき、行動援護支援者の養成は大変重要であると考えるからです。
 即ち、この行動援護を通した支援者研修プログラムで育成された多くの支援者が、利用者を中心とした地域生活サービスを包括的に繋ぎ、マネージメントできるスーパーヴァイザーとして育ち、活躍できる環境が整えられること、そのことが日本の福祉の質の向上にとって大変重要な課題であると考えているからです。
 そのとき、野沢さんが述べられている「支援者がその役割を自覚して、新たな価値観(魅力)を障害者福祉の分野に築くことができたとき、「行動援護」が意味する支援は福祉の枠を超えて、この時代の重要な役回りを演じることになるのかもしれません」という予感が実現すると思っています。

掲載日:2010年10月14日


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